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そこら辺の砂でサンドキャストしてみたらえらいことになった|ガラスフュージング

ガラスフュージング

みなさんはガラス工芸の技法「サンドキャスト」ってご存知でしょうか。

砂で凹型をとり、その中に溶けたガラスを流し込んでガラスを作るという、金属で言えば鋳造にあたるガラス制作方法です。

「溶けたガラスを流し込む」これが通常なのですが・・・
ひょっとして砂の型にガラスを詰めて、電気炉で溶かせば同じこと出来るんじゃないかと思いまして・・・

また、調べたところサンドキャストはキレイな型取りをするために専用の砂を使うそうなのですが、これも「砂場とか、そこら辺の砂でもできるんじゃね?」なんて思いまして・・・

というわけで今回は電気炉を使って・・・
そしてそこら辺の砂を使って・・・

サンドキャストに挑戦してみました。

今回の記事をYouTubeでも

サンドキャストってそこら辺の砂でできるのか

サンドキャストをしてみるにあたり、通常はどんな砂を使うのか調べてみましたところ・・・

・川砂(少し粗目でガラスにテクスチャーをつける感じ)
・蛙目粘土(陶磁器や釉薬とのつなぎなどで使用する細かい粘土、水を使うことで固まる性質をもつ)
・カーボンの粉(熱もちをよくするのと、ガラスの付着を少なくする)

おおまかにこういった素材を均等にミックスして型を作り、そこに溶けたガラスを流し込んでガラスの造形をするという感じ。

なるほど、サンドキャスト用に砂を作るわけですね。
ちゃんとキレイに型をとりガラスを流し込んで固めれるよう各材料が調整してあります。

ではそこら辺の砂だとどこまでできるのか・・・
余計にやってみたくなりました。

そこら辺の砂って何? 

よーし!そこらの砂で挑戦だ!!

と思ったものの・・・ そこら辺の砂ってどんなもの?

最初は公園の砂場の砂でやってみようかと思ったのですが、よくよく考えてみたら公園の砂って公共の物だから勝手に取っちゃダメだよね。

というわけでホームセンターに砂を買いに行きましてゲットしたのが・・・

真砂土(まさつち)
ホームセンター等で200~300円くらいで売ってるやつです。

砂場の砂とは少し違うようですが、似た感じだと思います。
これでやってみましょう。

この砂で型を取るには・・・

さてこの真砂土。
ほんとそこら辺のサラサラな砂で、型を付けようと思ってもサラサラでとてもじゃないけどガラスを作る型としては使えそうもありません。

なので、通常のサンドキャストと同じように砂に水分を与え、固まりやすくいたします。
砂に霧吹きで水を掛けてまぜまぜ。
子供の頃、公園の砂を湿らせて砂のおにぎりとか作ったよねw

この湿った砂を100均植木鉢に詰めていく・・・

ペットボトルのおしりでトントンしながらギューギューに砂を詰めていきました。

さぁ、何の型をとろうか・・・

はい。毎度おなじみ私の指。

先程ぎっしり湿った砂を詰めました植木鉢にブッスリ目つぶしw

もちろん砂だからね。粒が粗く、爪の形状や手のシワや関節などの再現はできません。
型を取るというより穴を掘るという感覚だね。

穴の開いた砂型の中にガラスを詰めて、いざ焼成!

いよいよガラスを詰めていくわけですが、今回使用するガラスは・・・

ガラスフュージング用のブルズアイ社のガラスフリット(ミディアム)
・1137 ミディアムアンバー
・1437 ライトアンバー
・1101 クリア

この3色を軽く混ぜ混ぜして砂の穴の中に詰めていこうと思います。

もちろん穴の中、砂の表面には離型剤(パーフェクトプライマー)。
真っ白になるまでスプレーしましたよ。(何このフォンダンショコラ感w)

そして今回、割と地味な色合いのガラスを選んだのでアクセントとして金澄(金箔の分厚いやつ)を入れてみることにしました。

本来、ガラス表面に金澄を出してガラスが溶けちゃう温度で焼成すると分厚い金澄と言えども飛んじゃう可能性が高いんですけど、このように型に入れてその上からガラスでキャップすることによって飛んじゃんことはありません。

そして先ほどのガラスフリットを詰めていく。

こんなお山にしてみました。

ガラスフリットを型に入れる場合、たとえギューギューに詰めたとしても粒と粒の間には空間があるので詰めたガラスは必ず沈みます。

なので植木鉢の上面を超えてこんもりと盛ってるわけですね。
電気炉にこのようにセッティングいたします。

みなさんご存知の通り植木鉢の底には水が抜けるよう穴が開いております。
今回は濡れた砂とガラスを詰めてますので水蒸気や空気の逃げ道としてこの穴を使いたい。
なので植木鉢を棚板に直接置かずに棚上げしております。(かしこい)

焼成プログラムを詳しく解説します

さぁ、いよいよガラスを溶かすために電気炉で焼成するわけですが・・・

もちろん今回もガラスが割れないよう、そしてキレイに安全なガラスとして仕上がるようガラスを加熱から完全に冷ますまでをコントロールいたします。

今回の焼成プログラム(使用電気炉「キルンキング160PKS」)
1. 120℃まで1時間かけて上げる
2. 120℃で1時間キープ
3. 663℃まで2時間で上げる
4. 663℃で2時間キープ
5. 830℃まで一気に上げる
6. 830℃で2時間キープ
7. 482℃まで下げる
8. 482℃で3時間キープ
9. 420℃で1時間キープ
10. 370℃で1時間キープ

今回の焼成プログラム。なぜ僕がこんなプログラムにしたのか解説したいと思います。

1. 120℃まで1時間かけて上げる ~ 2. 120℃で1時間キープ
通常のガラスフュージングでの焼成プログラムではこの「120℃」でキープいれることはほぼ無いのですが、今回は120℃で1時間もキープを入れました。

今回砂に水を含ませているので焼成時にその水分が蒸発いたします。
なのでいつも通りに温度を上げてしまうと、水蒸気で中のガラスが膨れたり変形してしまう恐れがあります。

この120℃までゆっくり上げて1時間キープすることにより砂に含まれる水分を飛ばし、砂を完全に乾燥させようとしたわけです。

どこまで意味があるかはありませんが、少しでも水気が逃げやすいよう電気炉のフタも少し開けた状態にしました。

3. 663℃まで2時間で上げる ~ 4. 663℃で2時間キープ
120℃でキープを入れた後、663℃まで2時間かけて比較的ゆっくりめで温度を上げました。
ここの部分は温度差でガラスが割れないようにする段階です。

今回は使用したガラスがフリット(粒)なのでガラスが割れて困ることはないのですが、植木鉢が温度差で割れてしまう可能性があるなと思い、2時間かけてじっくり温度をあげました。

また663℃というのは今回使ったブルズアイガラスではガラスが徐々にくっ付いていく温度。
この温度でキープをいれてゆっくりガラス同士をくっつけることで、気泡がガラスの中に閉じ込められにくくなります。
ある意味気泡を少なく焼成する方法ですね。

そしてもっと大事なのは、この663℃を長時間キープすることで炉内すべての温度を均一にすること。
今回の焼成は植木鉢があって砂があってその中にガラスという状態。

ということは、電気炉内で温められた空気の温度がガラスに届くまでかなり時間が掛かるんです。植木鉢は663℃になっても中のガラスはまだまだ温度が低いなんてことが起こりえます。

なので663℃までゆっくり上げて、663℃でキープ時間を長めにすることによって、炉内の空気、植木鉢、砂、ガラスの温度を均等にいていこうというのがこのプログラムです。

5. 830℃まで一気に上げる ~ 6. 830℃で2時間キープ
663℃から上はもうガラス自体内部構造的には溶けた状態と変わらないので、温度差でガラスが割れることはありません。
なのでここはフルパワーでトップ温度まで上げるようにしました。(ただ、ここで私は重要なミスを犯してます。なぜかはこの記事の後半で・・・)

そして830℃で2時間キープすることによって、詰めたガラスフリットを完全に溶かしていきます。
むき出しのガラスであれば10分15分で十分なのですが、663℃の時に記載しました通り今回は中のガラスに熱が伝わるまでにかなり時間が掛かります。

なので2時間という長時間のキープにしてみました。

7. 482℃まで下げる ~ 8. 482℃で3時間キープ
482℃、この温度はブルズアイガラスの徐冷温度。この温度でキープすることによって歪(ひずみ)のないガラスを作ります。

トップ温度から482℃までは基本電気炉を閉めたまま、自然に温度を下げていきます。
そして482℃で3時間キープ。

先程から記載させていただいてるとおり、植木鉢、砂、その中にガラスとなると実際に中のガラスが482℃になるにはかなり時間が掛かります。

また、今回のガラスの形状を考えても表に出てる部分、先端の細いところ、またガラスの中心部とすべて温度を均一にするにはやはり最低でも3時間くらいは掛かりそうだという予測の元この温度コントロールにしてみました。

9. 420℃で1時間キープ ~ 10. 370℃で1時間キープ
小さい物のガラスフュージングであれば482℃でキープした後、電気炉の電源OFFでそのまま冷ますというのができるのですが、今回のようにガラス自体が囲まれてたり、分厚かったり、複雑な形状の物は482℃以降も温度管理をしっかりして下げていかなくてはいけません。

ブルズアイガラスの場合ガラスを482℃にした後、
・427℃まではガラスの外側と内部での温度差を5℃以内にする
・427℃~371℃までガラスの外側と内部での温度差を10℃以内にする

ここが歪(ひずみ)のないガラスを作る温度管理とされてます。

セグメント数(プログラムの分割数)の多いプログラムコントローラーが付いてる電気炉であれば、「1時間に56℃くらいのペースで温度を下げる」みたいな設定でOKなのですが、今回僕が使用した「キルンキング160PKS 」はセグメント数が1個でシステム上、温度を下げる時には時間指定ができません。

なので420℃で1時間キープ、370℃で1時間キープを入れることによって482℃~371℃までガラスの外側と内部の温度差を少なくするようにいたしました。
ま、苦肉の策ですねw

焼成中の大失敗(汗)ガラスは無事なのか!?

ま、ここまで偉そうに焼成プログラムを解説いたしておりましたが、実は焼成中にとんでもない失敗をいたしました。

もう事件です。

トップ温度でガラスの溶け具合を確認したら・・・

植木鉢の外に砂が漏れ漏れ

最初は植木鉢の上に積んでた砂が土砂崩れを起こしたのかと思っていたのですが、焼成後確認してみたら・・・

植木鉢パッカーンそうです。植木鉢が割れていたんですね。

原因は何なのか・・・ここは真剣に考えないといけません。

今回の焼成プログラムで言うと・・・

5. 830℃まで一気に上げる

そうここですね。先ほどプログラム解説でも書きましたが、663℃(正確には537℃)以上ではガラスは温度差で割れることはありません。

なので制作時間短縮も兼ねて830℃まで一気に上げたのですが・・・

アンタ、植木鉢のこと考えてる?

あっ、やっちまいました。確かにガラスは温度差で割れる温度の上げ方ではないですが、植木鉢はガラスじゃないもんね。

一気に温度を上げたら割れる可能性あるよね。

そして、砂もガラスも温度を上げたら膨張するよね。
今回は砂をギューギューに詰めたところにガラスを入れてるので、砂とガラスが熱で一気に膨張して外側の植木鉢が耐えれなくなった可能性もあるよね。

まぁ、ここが原因と考えて間違いないでしょう・・・

しっかり冷まして開けてみる|中のガラスは無事なのか!?

ガラスをしっかり冷まして電気炉の中を見てみたら・・・

砂を巻き込んじゃった様子はうかがえますが、表面的にはヒビなどもないようです。
それにしてもなんだか美味しそうw

恐る恐るガラスを取り出していきましょう。

植木鉢パッカーンの不安の中、まずは植木鉢から砂を取り出します。

そこから砂を恐る恐るおとしていくと・・・(まるで化石の発掘作業w)

出たぁぁぁぁl

どうやらガラスは無事のようです。

さらに付着した砂を筆などを使い丁寧に取り除いていきます。

サンドキャスト作品「めつぶし」出来上がり。

予想より多い砂の付着・・・

頑張って付着した砂を取っていったんだけど、思ってたよりたくさんの砂粒がガラスに喰い込んじゃいましたね。

本来のサンドキャストのように溶けたガラスが熱いうちにバーナーであぶりながら砂を除去できればこんなことにはならないのですが、電気炉の中でそれは不可能。

今回のやり方だとこれは仕方がないかもしれません。
ま、光が当たるとこの砂粒もいい感じに見えますので、これはこれでいい感じじゃないかと。
そこら辺の砂を使った電気炉サンドキャストはこんな感じで完成といたしましょう。

技法や使用する型、ガラスに合わせた温度コントロール

今回は結構無謀なそこら辺の砂を使い電気炉でサンドキャストいたしましたが、植木鉢や砂、水、ガラスの形状などいろんな条件にあわせてガラス焼成の温度コントロールを考えるのがほんと楽しかった。

「水蒸気を抜くにはここでキープだな」とか「ガラスに温度が伝わるまでめっちゃ時間かかりそう」とか「この形状だと徐冷に時間を掛けないと割れるぞ」などなど・・・

焼成スタートから完全に冷めるまでのガラスの状態や熱の状態を想像しながらプログラムしていく、そしてガラスが割れることなく完成する感動はなかなかのものでした。
(植木鉢はパッカーンしたけどねw これも勉強)

初心者のうちは教則本どおりであったり、習ったとおりの焼成プログラムでガラスフュージングを楽しむと思います。

でもそこでストップしちゃうのはもったいない

ガラスの特性を理解し各温度でのガラスの状態を想像することによってガラスの形状や色、曲げ具合など自分の作りたいガラスを作ることが出来るようになると、今の何十倍もガラスフュージングが楽しくなることでしょう。

どんどんチャレンジしてガラスの特性を勉強していきましょう!
皆さんの素敵な作品を期待しております!!







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