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ガラスフュージングの基礎の基礎『温度の下げ方編』・もう初心者とは言わせない!

ガラスフュージング

ガラスフュージングは電気炉を使って高温でガラスを溶かしたり熔着させたりするのですが、その温度の上げ下げは、いかにガラスの性質を知った上で効率よく焼成するかが重要になります。

前回はその中でも電気炉で温度を上げる時のポイントや注意点を解説いたしました。

そこで今回はこの続き。
ガラスを焼成したトップ温度からの温度の下げ方のポイントや注意点を解説したいと思います。

今回の内容をYouTubeで解説

ガラスフュージングでの温度の下げ方

まず、温度を下げる時に大事なのは、ガラス自体をよりキレに仕上げ、また冷める工程で割れないように、そして完成後も割れにくいガラスを作るということ。

そう、闇雲に温度を下げればいいというものではないんです。
温度を下げる時のポイントは3つ1.失透を防ぐ 
2.歪(ひずみ)を防ぐ 
3.熱割れを防ぐ

この3つの『防ぐ』を意識しながらガラスの性質に沿った温度コントロールで実行するのが大事。

一つずつ解説していきましょう

1.失透を防ぐ

「失透(しっとう)」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?

「失透」読んで字の如く「透明を失う」

そう、本来であればフュージング後のガラスはツルっとピカピカなのですが、ごく稀にガラスの一部分が曇ったりすること。失透現象なんて言い方したりします。

ガラスを加熱から冷ます時にある条件が重なるとガラスの組成の一部が結晶化して失透してしまうことがあるのですが、約700℃付近で長時間保持される時に起こることが多いといわれております。

ということは… 簡単に言えばその700℃近辺の温度帯を早く抜ければ失透しにくいということ。

つまりトップ温度でキープ後、徐冷温度の482℃まで早く下げれば失透する可能性は低くなります。

なので基本的にトップ温度から徐冷温度までの間は加熱せず、そのまま電気炉の中で冷ました状態にしてください。

電気炉のフタは開けないで!

『トップ温度から早く温度を下げたいなら電気炉のフタを開けて冷ませばよくない?」

なんて方もいらっしゃるかと思います。

答えは…ダメ✕

アメリカのブルズアイ社は「電気炉のフタを開けて冷ますことは極力しないでください」と公式に発表しております。

フタを開けちゃダメな理由

なぜフタを開けてはいけないのか…

トップ温度のように温度の高い状態でフタを開けると、冷たい空気が電気炉の中に流れ込みます。そうすると中のガラスの表面やフタに近いところなど部分的に温度が下がります。

つまり、焼成中のガラス全体にかなりの温度差ができてしまうんですね。

そしてそこから徐冷温度でキープしようとすると、ガラスに温度差ができちゃってる状態からキープをするので、ガラス全体の温度を整えるためにキープ時間を通常より長く取らないといけなくなってしまうんです。

また、フタを開ける時間が長いとガラスが割れる温度帯まで下がってしまったり…
またフタを開けた時の空気の流入で電気炉のサビの粉やゴミが一緒に流れ込んでガラスの上になんてことも…

そう、電気炉のフタを開けることっていいとこ無しなんです。
でも早く下げた方が良いって言ったじゃん!トップ温度から徐冷温度まで早く下げる意識を持つことは大事なのですが・・・

実は皆さんが持ってる電気炉のサイズであればフタを開けなくても十分、早く温度は下がってるんです。

なので電気炉のフタを閉めたまま温度を下げても失透する確率はかなり低いと思ってもらって良いでしょう。

みんなが経験する失透とは…

でも失透しちゃった経験って誰もがありますよね。

実は皆さんが経験してる失透はほぼガラスの汚れによるものなんです。
先に解説したガラスの組成が…からの失透はほぼ無く、元ガラスの汚れやオイル、指紋などの汚れが焼きついちゃったパターンが9割以上を占めると言っても良いでしょう。

そう、一番大事なのは焼成する前のガラスをキレイにしてから焼成するということなんです。
これからはしっかりガラスを洗浄してから電気炉に入れましょうね。

2.歪(ひずみ)を防ぐ

続いては「歪(ひずみ)を防ぐ」

まずガラスの歪とはいったい何なのか・・・

熱せられて構造上液体になったガラスは温度が下がると固体に変化します。
この時、ガラスの表面から温度が下がり収縮して固まるのですが、ガラスの内部は液体のままの状態で表面が冷めて固まってもまだ収縮してません。

遅れて内部が冷めて収縮しようとしたとき、表面はもう固まってしまっているので内部が収縮してくると表面に力が加わってしまいガラスが不均一な状態になってしまう・・・

そう、このガラスの中に力が加わってしまってる状態が歪(ひずみ)です。
この歪の力が強いとガラスを冷ましていく工程で電気炉内でガラスが割れたり、また完成後は割れてなくてもガラスの内部では常に引っ張り合っており、何かのはずみで弾け割れたりすることがあります。

ガラスフュージングの温度管理ができる家庭用電気炉

歪をなくすガラスの冷まし方

さぁ、それではこの歪をなくすためにはどのようにすればいいのか。
ここではアメリカのガラスメーカー「BULLSEYE」社のフュージング用ガラスでの温度管理で解説いたします。

他のメーカーのガラスではこれとは温度が違いますが、基本的な内容は同じです。
参考にしてみてください。

トップ温度から482℃まで速やかに下げる
まずはガラスの溶け具合や曲げ具合で設定したトップ温度から482℃までを速やかに下げることが大事。
これは先の「失透を防ぐ」で解説した通り、失透域の温度を早く抜けるための温度設定です。

482℃はブルズアイの徐冷温度。(徐冷温度に関してはこの後解説いたします。)
この温度まで速やかに下げてなるべく失透しないようにしましょうねということです。

482℃でキープしガラス全体の温度を均一にする
482℃まで速やかに温度を下げたらここで温度をキープしてガラス全体の温度を均一にします。

徐冷温度で「1時間キープ」とか「2時間キープ」とか聞いたことありますよね?
「なんでこの温度で何時間もキープしないといけないんだろ」なんて思ってる方も多いと思います。

トップ温度から下げて電気炉の表示温度が「482℃」になったとしても、ガラスの表面や内部、棚板に接してる面などあらゆる部分でガラスの温度は違っています。特に分厚いガラスや複雑な形状をしたガラスとなるとその温度差はかなりあります。

そこでそのガラスのサイズや形状に合わせてガラス全体が482℃で均一になるようにキープ時間を取るわけです。
もちろん小さなガラスパーツとかですとキープ時間は30分もあれば大丈夫だったりするし、大きなメートルクラスのガラス作品となると徐冷温度でのキープが数日とか数週間なんてことも…

なんとなく「ここでキープ入れればいいのね」ではなく、大事なのはガラス全体の温度差をなくし、全体を482℃で均一にするために電気炉の温度設定を482℃にしてキープ時間を設けることなんです。
なぜ温度を482℃で均一にしないといけないのか?実は、歪ができないようにガラスを冷ます一番大事なポイントは、この徐冷温度(482℃)から下の温度管理、その準備段階が徐冷温度でのキープなんです。
つまりこの徐冷温度でキープというのは
「482℃でガラス全体の温度を均一にしてここから温度を下げる一番大事なポイントに備えましょうね」ということなんです。

482℃から371℃までをゆっくり下げる
さぁ、ここでガラスの温度を下げる時の最重要ポイントがやってまいりました。
482℃から下の温度コントロールです。ガラスが歪むか歪まないかはここで決まります。

BULLSEYE社の資料では、482℃からガラスの温度を下げる時に…
482℃から427℃までのガラス内の温度差は5℃以内
427℃から371℃までのガラス内の温度差11℃以内
この温度差以内で冷ますことにより歪はなくなりますとの記載されております。


そんなコントロール
私にはできません

まさかここまでのガラス全体の温度差データが公表されてるとは思わなかったよね。

もちろんガラスに温度計を差し込んでガラス全体の温度差を計ることなどできませんし、私にはこんなコントロールできっこないと思っちゃうよね。

安心してください。
みんなの味方、BULLSEYE社はガラスの厚みなどによる温度の下げ方の表を公開しております。

表を見て「うわぁぁぁぁ」なんて引いちゃってる人も多いかと…
諦めないで。
大事なのは482℃から371℃までをゆっくり下げるという意識

例えばYoutTube動画で解説した内容いでいくと…

ガラスサイズ:25cm角6mm厚 使用電気炉:パラゴンGL24
焼成方法:フルフュージング
1.810℃から482℃まで速やかに下げる
2.482℃で1時間キープ
3.1時間に56℃のペースで371℃まで下げる
 (約2時間かけて371℃まで下げる)
4.371℃から室温まで電源OFFで下げる

「3.」が371℃までゆっくり下げるの部分になります。
25cm角サイズのフルフュージングのプレートだと482℃から371℃までは約2時間くらいかけて冷ませば歪の少ないガラスが作れるんですね。

歪まないガラスを作るために大切なのは、
482℃から371℃までゆっくりと、なるべくガラス全体の温度差を発生させないように下げていくこと。
そのためにあらかじめ482℃でキープ時間を取ってガラス全体をまず482℃で均一にしておく。この2点が最重要ポイントです。

3.熱割れを防ぐ

さぁ、ここまで来ればあとは熱割れを防ぐだけ。

熱割れに関しては「温度を上げる編」では冷たいコップに熱湯を注いで割れるイメージと解説いたしましたが温度を下げる時の熱割れは、言ってみれば熱っちっちのガラスコップを氷水に入れるイメージですね。(そりゃ割れるよねw)

これと同じことが電気炉内で起こらないようにしようねということです。

ま、通常のガラスフュージングであれば電源OFFのまま電気炉のフタを開けないようにして冷ますでOKです。
かなりの塊や複雑な形状のガラスとかだともちろん371℃から下もゆっくり温度を下げるようにコントロールする必要もある場合がありますが、今回は基本的なガラスフュージングの場合って感じね。

早く作品が見たくて慌てて電気炉のフタを開けちゃだめよってことです。
大体100℃くらいまでは閉めたままで、そこからは電気炉に少し隙間を開けても大丈夫でしょう。
そして室温になったらガラスを取り出していいでしょう。

でも、ガラスの塊とかになると電気炉表記は30℃とかになっててもガラスを触ったら「熱っ!」なんてこともあるから気をつけてね。

ガラスフュージングの温度管理ってほんと大事

今回はガラスフュージングでの基本的な温度の下げ方を解説いたしました。
これまでなんとなく温度をゆっくり下げて、徐冷温度でキープして…だった方も「なるほどそういうことだったのか!」なんて思っていただけたのではないでしょうか。

誰でもガラスフュージングを楽しめて、そして販売できるようになった現在。
正しくガラスを焼成して、割れにくいより安全なガラス作品を作ることは必須事項です。
購入してくださった方、使ってくださる方を絶対に危険にさせてはいけません。

素敵な作品でみんなを笑顔にしていきましょうね。


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