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タックフューズは「フルフューズの温度を下げたもの」じゃない|ブルズアイ社「Tips for Tack Fusing」をつぎやん流に読んでみた【温め方・徐冷】

はじめての人へ

ガラスカット、ガラス洗浄、気泡と続けてきた「ブルズアイ社の資料をつぎやん流に読んでみた」シリーズ。今回はタックフューズの徐冷(じょれい)の話です。

読んだのは「Tips for Tack Fusing: Annealing(タックフューズのコツ:徐冷編)」。PDFでたった1ページの資料です。

でもこの1ページ、短いぶん大事なことしか書いてない。しかも「焼き上がりはきれいやったのに、何日かしたら割れてた」という、タックフューズでいちばん悲しいパターンにまっすぐ効く内容でした。

そもそもタックフューズって?

資料の後半に、タックフューズの説明があります。まとめるとこんな感じ。

  • ガラス同士をくっつけながら、パーツの形や手ざわりを一部または全部残す技法
  • 焼く温度はだいたい690〜788℃(フルフューズより低め)
  • 温度が低めだと、パーツがやっとくっつく程度(粒同士が軽く焼き締まる「シンタリング」や、ペタッと付くだけの仕上がり)
  • 温度が高めだと、角が丸くなってなめらかな表面に(「コンターフューズ」と呼ばれることも)

ポコッとパーツが浮き出た立体感がかわいくて、好きな人も多いと思います。

ただ、資料はここで大事なことを2つ書いています。

  • タックフューズは厚みがバラバラな作品になりやすい。だから全体を均一に温めて、均一に冷ますことが成功のカギ
  • そのあとスランプ(型で曲げる)などでもう一回焼くときにも、特別な注意がいる

つまり、あのかわいい凸凹そのものが、徐冷をむずかしくしているんです。

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いちばん大事な話:タックフューズは「フルフューズの温度を下げたもの」じゃない

3ステップの前に、この資料を読んでいちばん伝えたいことを先に書いておきます。

タックフューズを焼くとき、

「いつものフルフューズのプログラムで、トップの温度だけ下げる」

これ、いちばんやりがちなパターンやと思います。プログラムをちょっと変えるだけで済むし、なんとなく合ってそうですもんね。

でも、ブルズアイ社の資料を読むと、タックフューズは温度管理の考え方そのものが、フルフューズとは違うことが分かります。変えなあかんのは、トップの温度だけじゃない。温め方も、徐冷も、冷まし方も変わるんです。

フルフューズは「厚みが揃う」、タックフューズは「揃わない」

なんで考え方が違うのか。ポイントは焼き上がったときの厚みです。

フルフューズは、ガラスが溶けて平らな1枚の板になります。ガラスには6mmくらいの厚みに落ち着こうとする性質があるので、焼いているうちに厚みがだいたい揃っていく。冷めるときは「厚みが均一な1枚の板」です。ブルズアイ社のフルフューズの焼成例も、「3mmを2枚重ねた、厚みが均一な6mm」が前提として書かれています。

いっぽうタックフューズは、パーツの形を残すのが目的。だから焼き終わっても、厚みはバラバラのまま。薄い土台の上に厚いパーツが乗った状態で冷めていきます。

すると、薄いところは早く冷めて、厚いところはなかなか冷めない。同じ1枚の作品の中で、温度差ができやすいんです。

その温度差が大きいまま固まると、ガラスの中に歪み(ひずみ)が残る。それが「焼き上がりはきれいやったのに、あとで割れた」の正体のひとつです。割れる原因のくわしい話はフュージングガラスが割れる原因は3つですに書きました。

タックフューズの断面図。薄いところは早く冷め、パーツが重なった厚いところはなかなか冷めないので、作品の中に温度差ができ、歪みが残ってあとで割れることもある

つまり、こういうことです。

トップの温度を下げると、形が残る。形が残ると、厚みのバラつきも残る。

だから、トップ温度を下げたぶん、温め方と冷まし方はむしろ慎重にしないといけない。タックフューズが「フルフューズの温度を下げたもの」ではない理由は、ここにあります(ここは資料をもとにした僕の言い方です)。

何が変わるのか、くらべてみる

ブルズアイ社の資料(「Tips for Tack Fusing: Annealing」と、焼成スケジュールの書き方の資料「Writing Firing Schedules for Fusing & Slumping」)から、フルフューズとタックフューズで変わるところを並べてみました。

フルフューズ(厚み6mmで均一)タックフューズ(厚みがバラバラ)
トップの温度例:約810℃(ガラスが平らになるまで)約690〜788℃(形を残す)
最初の上げ方(538℃まで)1時間に167〜222℃1時間に56〜111℃(厚いところが12mm以上なら、さらに遅く)
徐冷表の見方その厚みの行いちばん厚いところの2倍以上の行
冷ますとき徐冷表のとおり扉も空気穴も閉めたまま

※フルフューズの欄は、ブルズアイ社の焼成例(3mm×2枚・厚みが均一)と、厚みが均一な作品向けの目安です。

トップの温度は表の1行にすぎません。残りの3行、最初と最後がまるごと変わるんです。

温めるときも、ゆっくり

今回の資料は「徐冷編」なので冷まし方の話が中心ですが、資料の中で案内されている「Writing Firing Schedules for Fusing & Slumping」を読むと、温め方もちゃんと変える必要があることが分かります。

厚みが均一でない作品や、反射したり熱をさえぎったりするもの(銀、ファイバーペーパー、重ねたガラス、厚いパーツなど)が入った作品は、ゆっくり温めること。1時間に56〜111℃がおすすめ。

さらに、いちばん厚いところが12mm以上のタックフューズなら、徐冷表で「2倍の厚み」の行の、最後の冷まし方の速さ(371℃→室温)を、そのまま最初の上げ方に使う、とあります。たとえば資料の例の15mmなら、2倍で30mm → ひとつ厚い38mmの行 →1時間に40℃。かなりゆっくりです。

なんでかというと、温めるときも冷ますときと同じことが起きるから。薄いところは先に熱くなって、厚いところは遅れてついてくる。その温度差で、焼いている途中にパキッと割れる(熱割れ=サーマルショック)ことがあるんです(ここは僕の補足です)。

ちなみに、538℃を超えたら熱割れの心配はもうないので、そこから先は1時間に333℃くらいで上げてOK、とも書いてあります。慎重になるのは「最初」と「最後」。メリハリですね。

だからブルズアイ社は、タックフューズにはふつうより長い焼成スケジュールが必要だと言っています。「タックフューズは温度が低いから早く終わる」は、むしろ逆なんです。

徐冷のコツは、たった3ステップ

ここからが資料の本題。タックフューズの徐冷は、この3つです。

ステップ1:いちばん厚いところの厚みを「足し算」で出す

まずは、作品のなかでいちばん厚いところがどこかを見つけて、その厚みを出します。

ポイントは、定規で測るんじゃなくて、重ねた板ガラスの厚みを足し算すること。資料の例はこうです。

6mmの土台に、3mmのガラスを3枚重ねたところがあれば、15mm。

そのうえで、注意書きが3つ。

  • 一度焼いたパーツ(丸く焼いたドットなど)を使うなら、組む前に厚みを測っておく
  • フリット(粒)を乗せたところは、どれくらいの厚みになるか見積もる
  • 迷ったら、少なめより多めに見積もる

一度焼いて丸くなったパーツは、もとの板より厚くなっています(ガラスは焼くと6mmくらいの厚みに落ち着こうとするので、小さいパーツほど丸く盛り上がる。くわしくは6mmルールの記事へ)。だから「3mmの板から作ったから3mm」ではなく、実際に測る。ここは見落としやすいところです。

ステップ2:その「2倍以上」の厚みで、徐冷表を引く

いちばん厚いところが分かったら、ブルズアイ社の徐冷表「Annealing Thick Slabs(厚い作品の徐冷)」を見ます。

このとき、表を引く厚みはいちばん厚いところの2倍以上。資料の例だと、15mmの作品なら30mm以上の行に従います。そして、表にある482℃でのキープ(徐冷のキープ)をプログラムに入れて、そこから先は表のとおりに冷ます。

なんで2倍なのか。実はこれ、徐冷表そのものの注意書きにも書いてあるルールです。

この表は、厚みが均一な平らな板を、上からも下からも同じように冷める置き方で焼いた場合のもの。そうでない作品は、いちばん厚いところの少なくとも2倍の厚みの行を選ぶこと。

タックフューズは「厚みが均一な平らな板」のまさに反対。だから2倍ルールの代表選手、というわけです。

「なんで形がややこしいと冷めにくいの?」「電気炉の表示温度とガラスの温度ってどれくらい違うの?」は、前回の記事で書きました。→ 電気炉の表示温度は、ガラスの温度じゃない【徐冷と温度差】

ステップ3:扉も空気穴も閉めたまま冷ます

急いで冷まそうとして、扉や空気穴を開けないこと。扉も空気穴も閉めたまま冷ます。

徐冷が終わって温度が下がってくると、早く作品を見たくて、つい扉を少し開けたくなるんですよね。気持ちはすごく分かります(笑)

でも、厚みがバラバラな作品で急に外の空気を入れると、薄いところだけが一気に冷えて、せっかくの徐冷が台なしになる。タックフューズの作品は、電気炉が自然に冷めるのを待つのが正解です。

タックフューズの徐冷3ステップ。厚みを足し算(6+3+3+3=15mm)、2倍以上で徐冷表を引く(30mmの行はないので38mmの行)、扉は閉めたまま冷ます

実際に数字を当てはめてみる

ここからは、徐冷表(Annealing Thick Slabs・摂氏版)の数字を使って、僕が計算してみた例です。表は厚さの段階が決まっているので、ぴったりの行がないときはひとつ厚い行を選びます(資料の「30mm以上」という書き方から、そう読むのが安全です)。

土台+パーツ厚いところ×2使う行482℃キープ合計
3+36mm12mm12mm2時間約5時間
6+39mm18mm19mm3時間約9時間
6+3×3枚15mm30mm38mm6時間約28時間

※「土台+パーツ」はガラスの厚み(mm)。いちばん下の行が資料の例です。「合計」は482℃から室温までの徐冷・冷却の時間で、焼成温度まで上げる時間は含みません。

資料の例のとおり、パーツを3枚重ねただけで合計約28時間。正直、びっくりしました。

ちなみに、徐冷表の12mmの行の冷まし方はこうです(1時間に何℃下げるか)。

  • 482℃で2時間キープ
  • 482→427℃:1時間に55℃
  • 427→371℃:1時間に99℃
  • 371℃→室温:1時間に330℃

ふだん6mmの作品を焼くときより、キープが長くて、下げ方もゆっくり。「厚いところ6mmのタックフューズ」でも、それくらいの扱いをしてあげて、ということですね。

ここでひとつ大事なのは、最後の「371℃→室温」は、ほとんどの家庭用の電気炉では表の速さより自然に冷めるほうが遅いということ。表の注意書きにも「電気炉がこの速さより遅くしか冷めないことがある。そのとき電気炉がエラー表示を出しても、焼成には影響しない」と書いてあります。なので、そこは電気炉まかせで扉を閉めたまま待てばOKです。

徐冷表の全体は、ブルズアイ社のサイトでPDFが公開されています(記事の最後にリンクを置いておきます)。冷まし方の基本は温度の下げ方の記事にも書いているので、あわせてどうぞ。

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ほかにも書いてあった4つの注意

資料の「Additionally(さらに)」の部分も、短いけど大事なことばかりでした。

① もう一回焼くなら、538℃まではゆっくり上げる

タックフューズした作品を、スランプなどでもう一回焼くとき。厚みがバラバラな作品は、最初の温度の上げ方(538℃より下)をゆっくりにするのがおすすめだそうです。急に温めると、熱割れ(サーマルショック)しやすいから。さっきの「温めるときも、ゆっくり」と同じ考え方ですね。

そして、こう続きます。

きちんと徐冷できた作品は、徐冷が足りなかった作品より、次に焼くときに熱割れしにくい。

つまり、1回目の徐冷をしっかりやっておくと、2回目の焼成も安全になる。徐冷は「その回のため」だけじゃなくて「次の回のため」でもあるんです。温度の上げ方は温度の上げ方の記事で書いています。

② 電気炉に入っているプログラムを、そのまま信じない

最近の電気炉には、「タックフューズ」などのプログラムが最初から入っているものがあります。とても便利なんですが、資料は「その作品に合っているとは限らないので、中身を確認して」と書いています。

プログラムは「よくある厚み」を想定して作られているはず。パーツを何枚も重ねた作品には、徐冷が足りないこともある。キープ時間と冷まし方だけでも、一度のぞいてみてください。

③ 棚板は浮かせる。何段も重ねない

棚板は、下に空気と熱がまわるように浮かせて置くのがおすすめ。そして棚板を何段も重ねて焼くのは避けてとのこと。

棚板をベタッと床に置くと、作品の下側だけ熱がこもったり冷めにくくなったりして、上と下で温度差ができやすくなります(ここは僕の補足です)。せっかく「×2」で慎重にプログラムを組んでも、置き方で温度差を作ってしまったらもったいないですよね。

棚板は支柱で浮かせて下にも空気と熱がまわるようにする。棚板を何段も重ねると冷め方にムラが出やすい
セラミックブロックセット 5個入り

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セラミックブロックセット 5個入り

棚板の下に置いて空間を作り、電気炉の中の熱と空気のまわりをよくするためのブロックです。

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④ 電気炉によっては「×3」が必要なことも

電気炉によって、徐冷の得意・不得意がある。

たとえば、上だけにヒーターがある、ファイバー(断熱材)製の電気炉は、さらに慎重に、いちばん厚いところの3倍の行で徐冷したほうがいい場合がある、と書いてあります。

上から温めて上から冷めるタイプは、作品の上と下で温度差が出やすいんでしょうね。自分の電気炉がどのタイプか、一度確認しておくと安心です。

で、今日からどれやります?

まずは、合言葉をひとつ。

タックフューズは、フルフューズの温度を下げたものじゃない。

そのうえで、今日からできることはこの4つです。

  1. 重ねた枚数で「いちばん厚いところ」を足し算する(焼いたパーツは実際に測る・迷ったら多めに)
  2. 最初の538℃までは、ゆっくり上げる(1時間に56〜111℃。厚いところが12mm以上なら、さらに遅く)
  3. その2倍の厚みで徐冷表を引く(ぴったりがなければ、ひとつ厚い行へ)
  4. 冷めるまで扉を開けない

タックフューズって、温度が低いぶん早く終わりそうに見えるんですよね。でも実際は逆で、資料の例なら徐冷だけで28時間。早く見たいし、電気代も気になる。

ちなみにブルズアイ社の資料には「徐冷はやりすぎても害はない」とも書いてあります。迷ったら、慎重なほうへ。

でも、パーツのひとつひとつに「ここにこの色を置きたい」って時間をかけた作品やからこそ、最後の冷ます時間もケチらずにいてほしいなぁと思います。割れずに手元に残ってくれたら、その作品はずっと楽しめますから。

僕がみんなにブルズアイを勧める理由

今回の資料、1ページしかないのに「電気炉に入ってるプログラムを信じるな」「電気炉によっては×3」とまで書いてあるんですよね。

ガラスを売る側からしたら「うちのガラスは簡単に焼けます」と言うほうが楽なはず。でもブルズアイ社は、うまくいかない可能性のほうを、先にちゃんと教えてくれる。しかも、その根拠になる徐冷表まで無料で公開している。

材料屋として僕がブルズアイを勧めるのは、色がきれいだからだけではありません。失敗したときに「なんで?」をたどれるガラスだからです。たどれるから、次はうまくいく。うまくいくと、もっと作りたくなる。ガラスを長く楽しむうえで、それがいちばん大事やと思うんです。

グラクラマーケットのブルズアイ板ガラスの商品ページにも、ブルズアイ社の公式情報をもとにした「ガラスの性質」を載せています。パーツの色を選ぶときに、のぞいてみてください。


出典:Bullseye Glass Co.「Tips for Tack Fusing: Annealing」(Webページ/PDF)、「Annealing Thick Slabs」(摂氏版PDF、徐冷表と注意書き)、「Writing Firing Schedules for Fusing & Slumping」(PDF、温め方と焼成例)※原文の内容をもとに、順番を組み替え、つぎやんの解釈と補足を加えて構成しています。引用部分はつぎやんによる訳です。「実際に数字を当てはめてみる」の表は徐冷表の数字をもとにつぎやんが計算した例、「何が変わるのか、くらべてみる」の表は資料の内容をつぎやんが整理したものです。徐冷表の全体は出典元のPDFでご確認ください。

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