電気炉の表示温度は、ガラスの温度じゃない|ブルズアイ社「TechNotes 7」をつぎやん流に読んでみた【徐冷と温度差】
ガラスカット、ガラス洗浄、気泡と続けてきた「ブルズアイ社の資料をつぎやん流に読んでみた」シリーズ。
いよいよ今回は徐冷(じょれい)の話です。
読んだのは「TechNotes 7: Monitoring Kiln Temperatures for Successful Annealing(うまく徐冷するための、電気炉の温度モニタリング)」。PDFで6ページ。
最初に正直に言っておくと、この資料の半分くらいはブルズアイ社の工房で、電気炉に穴をあけて温度センサーを何本も差し込む方法の話です。家の電気炉で真似する内容ではありません(このあと理由も書きます)。
じゃあなんで読むのかというと、「そこまでして何を測ってるのか」を知ると、徐冷で本当に大事なことがめちゃくちゃはっきり見えるからなんです。
ついでに、家の電気炉でも今日から使える話が2つ、ちゃんと入ってました。
大前提:徐冷のゴールは「ガラスの中の温度差を5℃以内に」
資料の1行目は、こうです。
電気炉でガラスを作るとき、特に大きな作品では、徐冷の温度帯でガラス全体を均一に冷ますことが大事。ガラスの中の温度差は、上と下、右と左、端と端で、5℃を超えてはいけない。
5℃。これがブルズアイ社の答えです。
徐冷って「482℃で何時間キープして、そこからゆっくり下げる」と数字で覚えがちなんですが、その数字は全部、この「ガラスの中の温度差を5℃以内に保つ」ためのもの。キープ時間も、下げる速さも、目的はひとつです。
もっと細かく言うと「5℃」と「11℃」の2段階
実はブルズアイ社の別の資料「TechNotes 4: Heat & Glass」には、これをもう一段細かく分けた数字が載っています。
徐冷中のガラスの中の温度差は、482〜427℃では5℃以内、427〜371℃では11℃以内に保つこと。
| 温度帯 | ガラスの中の温度差 |
|---|---|
| 482〜427℃ | 5℃以内 |
| 427〜371℃ | 11℃以内 |
| 371℃〜室温 | 数字の決まりはなし(熱割れしない範囲で冷ませばOK) |
つまり、いちばん気をつかうのは482℃から427℃までの最初の55℃。ここを過ぎると、ちょっとだけ温度差を許してもらえる。371℃より下は、もう歪みの心配より「急に冷やして熱割れさせない」の話になります。
ちなみにTechNotes 4には、371℃から下について「ふつうの6mmの作品なら、扉を閉めたまま電気炉まかせで冷ませばいい。93℃くらいまで下がったら少し開けてもいい。厚いものや厚みにムラのあるものは、室温になるまで閉めたまま」とも書いてあります。
温度差があるとなんであかんのか、は以前温度の下げ方の記事とガラスが割れる3つの原因で書きました。ざっくり言うと、冷めて先に固まった表面と、あとから縮む内側が引っ張り合って、その力(歪み=ひずみ)がガラスの中に残る。残った歪みは、何日もたってから突然パリンと割れる原因になります。

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電気炉の表示温度は「炉の中の1点」の温度
ここからが今回いちばん言いたいことです。
電気炉のコントローラーに出ている「482℃」。あれは、炉の中に1本だけ差し込まれた温度センサー(熱電対)の先っぽの、その1点の空気の温度です。ガラスの温度ではありません。
ガラスの上の面と、棚板に接している下の面。作品の真ん中と、フチ。厚いガラスほど、形が複雑なほど、表示が482℃でもガラスのあちこちの温度はバラバラです。
だからブルズアイ社は、大きな作品を焼くときはガラスのすぐそばに温度センサーを何本も置いて、実際の温度差を見ながら冷ましている。それがこの資料のテーマです。
資料には、こんな一文もあります。
何年も使ってきた電気炉でも、加熱や冷却が実は均一ではないかもしれない。
「うちの電気炉は慣れてるから大丈夫」が、いちばん危ないということですね。
特に気をつけたい5つのケース
資料が「とくに温度を確認したほうがいい」と挙げているのはこの5つ。
- 厚いガラス
- 均一に冷ましにくい作品(複雑な形など)
- 新しいタイプの作品(いつもと違う形・大きさ・型の素材)
- 新しい電気炉、または自分にとって新しい電気炉(譲ってもらった、教室で初めて使う、など)
- しばらく使っていなかった電気炉
センサーを何本も差すのは無理でも、このリストは家でもそのまま使えます。当てはまるときは「いつものプログラムで大丈夫かな?」と一回立ち止まる。それだけでも違います。
新しい電気炉の温度ムラは、ガラスを9枚並べて焼くと見えてきます。やり方は電気炉の温度ムラを確認する方法に書いたので、気になる人はどうぞ。
ブルズアイ社の工房では、こうやって測ってる
ここは「へぇ、メーカーはここまでやるんや」と読んでもらえたら十分なパートです。
使う道具
- 2〜4チャンネルの温度計(パイロメーター。センサーを何本もつないで、それぞれの温度を表示できる)
- 熱電対(ねつでんつい)2〜4本(温度を測るセンサーの棒。資料ではK型・インコネル製・直径約3mmを指定)
- コレット(電気炉の外側に取り付けて、熱電対を手で締めて固定する金具)
記録できるタイプの温度計なら、焼成中の温度をパソコンでグラフにして見られます。記録できないタイプなら、焼成中に人が手で書き留める。地道です。
置き場所は、目的によって2通り
① 作品の冷め方を見たいとき
大きな板ガラスなら、最低2本。
- 下の1本:電気炉の底と棚板に小さな穴をあけて、下から差し込む。ガラスの下の面に触れないギリギリまで近づける
- 上の1本:電気炉の天井に穴をあけて、真上から差し込む。ガラスが徐冷温度に来てもう固まったところで、そっと下ろしてガラスの上の面に触れさせる
上の1本は、ガラスが柔らかいうちに触れたら跡がつくので、固まってから下ろすわけです。これでガラスの上の面と下の面、両方の温度が見える。
ちなみに熱電対の先には、とろみをつけた棚板用の離型剤を塗っておくとガラスにくっつかない、というコツも書いてありました。
② 電気炉のクセを見たいとき
- 1本は棚板の上、電気炉の熱電対と同じ高さ
- 1本は棚板の下
これで、電気炉の上と下で温度がどれだけ違うか、そして電気炉のコントローラーの表示が正しいかまで分かる。上下のヒーターを別々に調整できる電気炉なら、そのデータで上用・下用のプログラムを作り分けます。

家の電気炉で真似しないほうがいい理由
資料にも書いてあるとおり、熱電対を入れるには電気炉の壁や天井にドリルで穴をあける必要があります。そして、
熱電対がヒーター線に触れてはいけない。感電や、温度計・電気炉の故障の原因になる。
ヒーター線のすぐそばに金属の棒を差し込む作業なので、ここは本当に危ない。しかも電気炉に穴をあけたら、メーカーの保証も効かなくなるはずです(ここは僕の補足です)。
なので、この方法は「メーカーの工房ではここまでやって、5℃を守ってる」という話として読んでください。僕らが家でやることは、このあと書く2つで十分です。
意外な話:センサー同士の「ずれ」を先に揃える
読んでいて「なるほど!」と思ったのがここ。
何本もの熱電対で温度差を測るなら、そもそも熱電対同士が同じ温度を同じように表示してくれないと意味がない。資料いわく、全部の熱電対が1℃以内で揃っていないといけない。1本でも狂っていたら、システム全体が信用できなくなる。
そこでブルズアイ社がやっている「揃え方」が面白いんです。
- 直径5cm・長さ5cmくらいの鉄の丸棒の真ん中に穴をあけて、そこに全部の熱電対の先をまとめて差し込む
- すき間をセラミックファイバーでぎゅっと詰めて、電気炉の真ん中に置く
- 合わせたい温度(たとえば482℃)まで一気に上げて、4時間キープ
- 表示が落ち着いたら(2時間以上かかる)、全部の熱電対を1本目に合わせて補正する
鉄のかたまりの中なら、熱電対の先は全部まったく同じ温度のはず。そこでの表示の差が、そのまま「センサーのずれ」というわけです。
そして資料には、こんな一文が添えてありました。
電気炉のコントローラーの表示温度に合わせて補正してはいけない。
つまり、電気炉の表示そのものも、ずれている可能性があるということ。メーカーがはっきりそう書いてるのは、けっこう大事なポイントやと思います。
ちなみに、測った温度がおかしくなる原因でダントツに多いのは「接続のゆるみ」だそうです。センサーの故障より、まずはコネクターがちゃんと刺さってるか。これはどんな機械でも同じですね(笑)

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温度差が5℃を超えたら、どうする?
測ってみて、徐冷中にガラスの温度差が5℃を超えていたら。資料の答えは2つだけです。
- 上・横・下のヒーターを別々に調整できる電気炉なら、温度差が5℃以内に収まるまで調整する
- 別々に調整できない電気炉なら、温度差が5℃以内に収まるまで冷ます速さを遅くする
家庭用の電気炉は、ほとんどが後者だと思います。つまり僕らにできることは、「迷ったら、もっとゆっくり冷ます」。結局ここに戻ってくるんです。
家の電気炉でも使える①:フチはファイバーボードで囲う
ここからが、センサーがなくても今日から使える話。
資料にこう書いてあります。
厚い作品をいちばんうまく徐冷できたのは、ガラスの周りをセラミックファイバーボードで囲ったとき。
なんでかというと、
作品のフチは、内側より先に冷えるから。
フチは、体積のわりに空気に触れる面が多いんです。真ん中は上と下の2面しか外に出ていないけど、フチは上・下・横の3方向から熱が逃げていく。だから冷めるのが早い。フチと真ん中で温度差が開いて、それがそのまま歪みになります。
そこで、ガラスの周りをファイバーボードで囲ってフチだけ先に冷えないように「保温」してあげる。ファイバーボードはもともとダム(ガラスが流れないようにせき止める枠)としてよく使うので、厚い作品なら「ダムを立てる」=「フチの保温」にもなっている、ということですね。

グラクラマーケット
セラミックファイバーボード 25mm厚 30cm角
厚い作品のフチを囲って保温したり、ダム(せき止め)にしたり。カッターで好きな形に切れます。
ショップで見る
家の電気炉でも使える②:形がややこしいなら「一番厚いところの2倍」で選ぶ
資料の最後のページには、厚いガラス用の徐冷スケジュール表(Annealing Chart for Thick Slabs)が載っています。この表、温度の下げ方の記事でも紹介したのですが、今回あらためて読んで、表の上に書いてある注意書きが大事やと気づきました。
この表は、厚みが均一な平らな板を、上からも下からも同じように冷める置き方で焼いた場合のもの。そうでない場合は、作品のいちばん厚いところの2倍の厚みの徐冷スケジュールを選ぶこと。
たとえば、薄いお皿の一部に厚いパーツが乗っている作品。形がでこぼこしたもの。型の上に乗っていて、下からは冷めにくいもの。こういうのは「一番厚いところ×2」で表を引く。
さらに資料は、表を見るときにガラスの厚みだけやなくて、置き方も考えてと言っています。
ガラスの周りや下に断熱材はないか。ガラスと一緒に、冷め方を変えてしまうものが炉の中に入っていないか。
型の上に乗せたガラスは、型に接している面だけ冷めるのが遅くなります。これも「上と下が同じように冷めない置き方」。2倍ルールの対象です。
表をちょっと読んでみる
全部載せると長いので、抜粋です(ブルズアイのクリアガラス基準、温度は摂氏)。真ん中の3列は「1時間に何℃下げるか」です。
| 厚み | 482℃キープ | 482→ 427℃ | 427→ 371℃ | 371→ 21℃ | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 12mm | 2時間 | 55 | 99 | 330 | 約5時間 |
| 19mm | 3時間 | 25 | 45 | 150 | 約9時間 |
| 25mm | 4時間 | 15 | 27 | 90 | 約14時間 |
| 38mm | 6時間 | 6.7 | 12 | 40 | 約28時間 |
| 50mm | 8時間 | 3.8 | 6.8 | 22 | 約47時間 |
表は150mm・200mmまであって、200mmだと合計約654時間。27日です(笑)
並べてみると、ひとつ法則が見えてきます。
- キープ時間は、厚みに比例(12mmで2時間、25mmで4時間、50mmで8時間)
- 冷ます速さは、厚みが2倍になるとだいたい4分の1(12mmで55℃/時 → 25mmで15℃/時 → 50mmで3.8℃/時)
厚みが2倍になると、ガラスの真ん中から表面までの距離も2倍。熱が抜けるのにかかる時間は、距離の2乗くらいで効いてくるので、速さは4分の1になる。そういう理屈やと思います(ここは僕の解釈です)。
ということは「2倍の厚みで選ぶ」は、冷ます速さを4分の1にするということ。かなり慎重です。でもそれくらい、形がややこしい作品の中では温度差が出やすいんですね。
もうひとつ、表を横に見ると面白いことに気づきます。12mmの場合、482→427℃は55℃/時、427→371℃は99℃/時。2段目のほうが約1.8倍速く冷ましていいことになっています。
これ、さっきの「5℃と11℃」とぴったり合うんです。冷ますのを速くすると、表面と中の温度差はそのぶん大きくなる。許せる温度差が5℃から11℃へ約2倍になるから、冷ます速さもほぼ2倍にできる。表の数字は、ちゃんと「許せる温度差」から逆算されてるんやなぁと(ここも僕の解釈です)。
ちなみにこの表は、厚さ75mmのガラスのかたまりの真ん中に熱電対を埋め込み、上の面と下の面にも1本ずつ当てて作ったそうです。その3本の温度差が、徐冷の間ずっと5℃未満だった。この記事の前半で出てきた「測る」の結果が、あの表になってるわけです。
なお、この表は12mmから始まっていて、ふだんの6mmの作品は載っていません。6mmの作品の冷まし方は温度の下げ方の記事で、うちの実例を書いています。
そしてもうひとつ、表の注意書きの最後の一文。
電気炉そのものが均一に冷ませないなら、どれだけ慎重な徐冷スケジュールでもうまくいかないかもしれない。
表どおりにやっても、電気炉にムラがあったら意味がない。だから「測る」が大事、という最初の話に戻ってくるんです。
で、今日からどれやります?
センサーを買って電気炉に穴をあける必要はありません。家でやるなら、この3つで十分だと思います。
- 厚いもの・形がややこしいものは「一番厚いところ×2」で徐冷の表を引く
- 厚い作品は、フチをファイバーボードで囲って保温する
- 新しい電気炉・久しぶりの電気炉は、いつもの作品の前に温度ムラを確認する
そして、迷ったときの合言葉は「もっとゆっくり冷ます」。
徐冷って、焼き上がった作品を見ても違いが分からないんですよね。うまくいっても見た目は同じ。でも、その作品を誰かが何年も使ってくれることを考えたら、見えない5℃にこだわる価値はあると思うんです。ブルズアイ社がここまで手間をかけて測っているのも、きっとそういうことなんやろうなぁと。
僕がみんなにブルズアイを勧める理由
今回の資料を読んで、あらためて「この会社、すごいな」と思いました。
厚さ75mmのガラスのかたまりに温度センサーを埋め込んで、徐冷の表を作る。センサー同士のずれを1℃以内に揃えてから測る。「電気炉の表示に合わせるな」とまで書く。そして、その結果を全部、無料で公開している。
ガラスを作って売るだけなら、ここまでやる必要はないんですよね。でもブルズアイ社は、そのガラスを使う人が「電気炉の中で何が起きているか」まで分かるように面倒を見てくれる。ガラスの切り方、洗い方、泡の防ぎ方、そして今回の冷まし方。このシリーズで読んできた資料は、全部そういう姿勢から出てきたものです。
材料屋として僕がみんなにブルズアイを勧めるのは、色がきれいだからだけではありません。困ったときに「なんで?」を調べられるガラスだからです。
失敗しても、原因をたどれる。たどれるから、次はうまくいく。うまくいくと、もっと作りたくなる。ガラスを長く楽しむうえで、これがいちばん大事なことやと思うんです。
グラクラマーケットのブルズアイ板ガラスの商品ページにも、ブルズアイ社の公式情報をもとにした「ガラスの性質」(ほかの色と重ねたときに反応するかどうか、など)を載せています。色を選ぶときに、のぞいてみてください。
出典:Bullseye Glass Co.「TechNotes 7: Monitoring Kiln Temperatures for Successful Annealing — With a Multiple-Point Measuring System」(Webページ/PDF)、「TechNotes 4: Heat & Glass」(Webページ/PDF、温度帯ごとの温度差の部分)※原文の内容をもとに、順番を組み替え、つぎやんの解釈と補足を加えて構成しています。温度は原文の華氏表記を摂氏に直したものです。資料に載っている温度計・部品の型番や購入先は省略しました。
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